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2004.09.02

小説・残光(仮)第二十三回

natuowari_010.JPE

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 くすっと、健二が小さく笑った。駿はぎくりとした様子で口をつぐんだ。
「お前、昔と変わらないよ・・・嘘をつくとき、決まって『ふん』って言ってからつく」
健二は立ち上がり、駿の肩をつかむ。
「何を隠してるんだ?俺の聞いたことに答えていないじゃないか?なあ、二年前に何があったんだ?」
健二の強い視線を避けて、駿は顔を捻じ曲げた。
「・・・つまらないことさ、専門家以外誰も読まない学術雑誌の編集長なんて仕事に嫌気が差したんだ。社長とこじれて・・・」
健二の腕は駿のポロシャツの胸倉にかかり、腰掛けている駿を引きずり起こす。
「おい!殴るぞ!あれだけ、詩織の真実をさらして、俺をぼろぼろにしておいて、自分のことは隠すのか?」
 唇を噛み締めて駿は健二を至近距離で見返す。健二の目に涙が滲んでいるのを見て、駿は大きく目を見開く。強張っていた駿の体から、力が抜けていく。
「君も・・・昔と変わらないんだな・・・すねて醒めてるような振りをして、実は誰より純情で一直線なんだ」
 健二が手を離すと、駿はよろけたが、立ち直り、月を見上げて一気に喋った。
「二年前にね、定期健診で異常が見つかったんだ。何回か検査を受けたけれど、医者は病名を教えてくれなかった。でも真那は聞いていた。僕は真那を問い詰めて聞き出した。日本で何人もいない、難病なんだってさ。治療法はまだない。余命は大体、五年くらいだって・・・」
 のどに痰が絡んだらしく、そこで駿は咳き込んでからだを折る。健二は言葉もなく駿を見つめた。
「な、わりと単純な話だろう?あと少ししか生きられないとわかったんで、心残りになってたことを、やろうと決意したのさ。そうでもなければ、僕みたいな気の小さい男が、こんなことできるかよ!」
無理やり笑う駿の顔が、月光を凄愴に映す。
 健二はしばらく沈黙していたが、やがてぽつりと訊ねた。
「駿・・・俺を追ってだいぶ歩いてきただろう?からだは大丈夫か?」
「ああ・・・まだ体力筋力はあるのさ。今は病人扱いしなくていいよ」
「なら、少し歩かないか?」「いいよ。月が綺麗だしね」
 琵琶湖疎水を渡り、南に向かい、円山公園を抜けて、二人は八坂の塔が見えるところまで、肩を並べて黙って歩いた。
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