« 小説・残光(仮)第十八回 | トップページ | 小説・残光(仮)第二十回 »

2004.08.26

小説・残光(仮)第十九回

yorubi2.bmp

----------
 健二は、何かが頭の中で炸裂したような気がした。
「もう、十年近くも前に、詩織は死んでいたのかよ・・・俺がただ間抜けに京都で生きている間に」
乱暴に椅子を鳴らして健二は立ち上がった。真那がその腕をつかもうとする。健二は反射的にそれを払いのけた。
「それで、それで彩夏というあの子は、詩織の・・・娘なのか?」
睨みつける健二の視線の先で、駿は小さく頷いた。
 健二は言葉にならないうめき声を上げて、よろめきながら店を飛び出した。真那の声と下駄の音が後を追ったが、駆ける健二にたちまち引き離された。

 どこをどう走ったのか、健二は、月光を浴びる京都市美術館の前にたどり着いていた。鴨川を渡ったことも覚えていない。ひと気のない広い前庭に入り込み、西洋建築に日本風の屋根をつけた不思議で巨大な建物を見上げ、そして月を仰いで、健二は歯を食いしばっていた。脳裏には、詩織の面影だけがあった。
 遠い車の喧騒にまぎれて、かすかに足音が近づいてくる。やがてそれは健二に近づき、ゆっくりとやんだ。月の影を引きずって、駿がやってきていた。
「追っかけるのに苦労したけど、ここにいるような気がしていたんだよ」
駿の呟きに、健二は月を見たまま言う。
「真那は・・・どうした?」
「タクシーに乗せて、宿に帰ってもらったよ。丁度良いさ、君と二人で喋りたかったんだ。話はまだ続くんだ」
駿は無表情にそう言うと、健二の傍らで、石造りの低い階段に腰を下ろした。
----------

|

« 小説・残光(仮)第十八回 | トップページ | 小説・残光(仮)第二十回 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/20826/1282631

この記事へのトラックバック一覧です: 小説・残光(仮)第十九回:

« 小説・残光(仮)第十八回 | トップページ | 小説・残光(仮)第二十回 »