« 小説・残光(仮)第二十回 | トップページ | 小説・残光(仮)第二十二回 »

2004.08.31

小説・残光(仮)第二十一回

_007.JPE

----------
 駿の言葉の衝撃から、身を守るように拳を固めて、健二は反論する。
「それが・・・真実だったとしても、俺たちと詩織が過ごしたあの日々は、かけがえのないものだったさ」
 駿は嘆息して、言葉を続ける。
「そうさ、君は詩織に愛された。それは確かだろう。でも詩織は、僕たちの前から去っていった。汚名を晴らすこともなく、姿を消した。真那が言っていたとおり、それは、僕たちへの最大の裏切りだった」
 汚名、という言葉に、健二は思わず目をつぶる。

 あの夏、楠本蝶類研究所の整理・解体を終えても、六人の仲間は週末や休日によく集まり、映画のオールナイトを見に行ったり、琵琶湖にハイキングに行ったりしていた。竜生は露骨に景子に好意を見せていたが、お嬢様然とした容姿と裏腹に豪快な性格の景子に振り回されていた。真那と健二は喧嘩友だちのようにしながら、親しく付き合っているようにみんなから思われていた。駿は内気で、健二の跡を付いて歩いているようだった。詩織はなかなか付き合いに出てこなかったものの、たまに参加すると無垢な笑顔で健二と駿を魅了した。そして健二は、密かに駿を出し抜いて、詩織に愛を告げた・・・
 そんな日々に亀裂が入ったのは、翌年の三月末である。春川教授から、困った問題が生じていると六人に呼び出しが来た。
「『楠本コレクション』と称する蝶の標本や古書が、高価な値段でコレクターに売買されている、というのだよ。なんとも理解しがたい話だ。あの建物にあった資料はすべて君たちが整理し、うちの大学の倉庫に納めたはずだろう?」
春川教授の猜疑心に満ちた視線を浴び、健二たちは愕然とした。
 冗談で「この図鑑類、古本屋に持っていけばたいしたもんだぜ」などと言い合っていた覚えはあった。しかし、それを実行することは誰も考えてもいないと、健二は信じていたのである。

「僕たちは、断固潔白を主張したよな。詩織も、知らないと言い張った。みんな、大学の倉庫に入ってから誰かが持ち出したのだと思いたかった。でも、そんなときだ、詩織に貸した音楽テープが、ゼミで発表する民話蒐集のテープと間違ったと気付いた真那が、焦って聖園女子大学に連絡をした。そして、詩織が偽学生だとわかった」
 そのことを真那から知らされたとき、健二は輝く季節の終わったことを感じたのだ。怒りと悲しみの炎が景色を染めていくと。
----------

|

« 小説・残光(仮)第二十回 | トップページ | 小説・残光(仮)第二十二回 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/20826/1321690

この記事へのトラックバック一覧です: 小説・残光(仮)第二十一回:

« 小説・残光(仮)第二十回 | トップページ | 小説・残光(仮)第二十二回 »