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2004.07.30

小説・残光(仮)第十一回

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 健二の脳裏に、鮮やかに浮かび上がるのは、あの夏の鮮烈なまぶしさだ。獰猛なまでに繁茂していた研究所周りの草を引き抜き、埃まみれになって建物内部の掃除をした。最初の日は弁当や缶ジュースを買ってきて食べたが、二日目には駿が登山用の灯油コンロを持ってきて珈琲を淹れた。真那が張り切って炊き出しをするようになり、さながら研究所は合宿所のようになっていった。二階の一番風通しのよい部屋を真っ先に片付けて、休憩室にしたのだ。ついには健二や駿はそこに泊まるようになり・・・
「作業が終わると、みんなで銭湯に行って、それからよく鴨川まで涼みに行ったね」
「それで、酒買って帰って、そのまんま泊まったんだ。一ヶ月だけの、俺たちの城だったな」
「あの、汚くて臭いソファで、よく寝れたよね、健二。朝行った私が、足を蹴飛ばして起こすのが日課」
「あの研究所、おれたちにとっちゃ、お宝の山でさ、ランタンの明かりで夜更かししてたんだよ」
 業者を雇って一気に潰してしまえなかったのは、研究所の蔵書や標本の価値を無視できなかったせいだ。実際、埃を拭ったガラスケースの中に、まだきらめきを失っていない南国の蝶の翅が輝いたときには、健二は息を飲んだ。
竜生はドイツやフランスの生物学の古書・図鑑に夢中になっていた。駿は膨大な古写真のコレクション整理にこつこつ取り組んでいた。
「真那たちは、何が面白かったんだ?」
「私は・・・片付け魔だから、とにかく全部片付けないと気が済まなかったのよ」
 ともすると、資料にのめりこんでしまう男子たちを叱咤して、女の子たちは掃除と整理、廃棄に邁進した。
「よく駿が怒っただろ?真那や景子が大事な資料を捨てちまったって」
「これ捨てていい?って聞いた時には、彼はうんって言うのよ。でもそれ、上の空なの。あとから気がついて慌てるんだ」
 笑いながらそう言った真那が、不意につまづいてよろめく。痛みに顔をしかめてしゃがみこんだ。
「しくじったわ・・・慣れない下駄の鼻緒で、まめを作っちゃったみたい」
「ちょっと見せてみろよ」
かがんだ健二は、真那のうつむいたうなじの白さに、どきりとする。彼女の髪の香りを吸い込んで、さらに胸の動悸が高くなる。
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