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2004.07.29

小説・残光(仮)第十回

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 真那の下駄の音を聞きながら、健二はゆっくりと歩を進め、独り言のように喋る。
「俺たちが出会ったのも、夏だったよな・・・。まだ、誰の下宿にもエアコンがなくて、夏休みには、実家に帰るか涼しい避暑地で住み込みのバイトに行く奴が多くて、京都に残って、あんな割の悪いバイトに応募した俺たちは、みんな変わり者だった」
「楠本蝶類研究所の、解体整理、だったよね。たったの六人で、結局夏休み中かかって・・・」
 それは、国立大学の広大な敷地の片隅にあり、閉鎖されることが決まった一つの建物の、取り壊しと整理のアルバイトだった。研究所といっても、楠本という教授が、戦前から戦中にかけて、台湾や南洋諸島で蒐集した蝶類の標本が納められた、小さな博物館のようなものである、楠本教授は戦後ほどなく行方不明になり、ほとんど誰にも省みられずにいた建物を、その年、取り壊すことが決まり、責任者となった生物学の教授が、安上がりに学生を集めてやらせようとしたのである。
「直接関係あったのは、あの大学で生物学やってた竜生だけだったな。事情知ってる奴はみんな逃げたんだ。うちの大学の学生課に貼ってあったバイトの求人ビラ見て、俺と駿がのこのこ出かけ・・・」
「竜生のおばさんがやってた女子学生アパートにいた、私と・・・詩織が」
 その少女の名前を口にしたとき、真那は少し顔を曇らせ、健二もまた、唇を噛んだ。だが、すぐに何事もなかったかのように回想を続ける。
「そういや景子は、なんであのバイトに来たんだっけ?」
「やだ、忘れたの?景子はあの生物学の春川教授の娘で、あんたたちが逃げ出さないための”エサ”だったんじゃない」
「ひでーことを言うな。でも確かに、最初は逃げ出そうと思ったぜ」
健二は笑い出した。お嬢さん学校で知られる四年制女子大にいた景子は、あの最初の日に、華やかな美貌を不機嫌にゆがめてやって来た。 そして、錆付いた鍵を開けて、薄暗い木造の建物に足を踏み入れ、健二たちも茫然としたものだ。凄まじい埃、蜘蛛の巣、床にはネズミの糞、床板を突き破って天井まで伸びた竹、おびただしい標本箱のなかで朽ちかけた蝶の屍骸・・・
「竜生が結局、責任者みたいなものだったよね。春川教授や大学院生たち、最初の一日でへばっちゃってさ」
「ああ、俺たち六人で燃えたんだ。妙なくらいみんな気が合って、『黄金の六人』って、自分たちで言ってさ」
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コメント

 お話は大分進んでいますね。大学の掲示板って、まれに「なんでこんな?」という怪しいバイトが貼ってありますよね。誰も行きたがらない教授のバイトなんてもありがち。
>金閣の近くまで歩きとおしたこともあったよね。
 私も昔、衣笠まで歩いたことありました。あんときゃ、何考えてたんだか?等持院やら竜安寺でぼーっと座ってみたり、御室八十八カ所まわって見たり。
>蝶類研究所
ちょっと、Marcyさんの外伝を思い出したりしました。オオミズアオでしたっけ?

投稿: Bach | 2004.07.30 13:28

Bachさん、コメントおおきに!
ボーっと過ごせるところが多いのが京都のありがたいところでしたね。
御室八十八ヶ所は、バイクで爆走(笑)したりしました。
オオミズアオは、わしも覚えてます。つうか、あのネタはわしが出したのですよ、「水着考察」で(爆)
Marcyさん、きっと元気に頑張ってらっしゃるだろうなあ(懐)

投稿: 龍3 | 2004.07.31 01:13

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