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2004.07.23

小説・残光(仮)第七回

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 驚いて健二は真那に、矢継ぎ早に問いかけた。
「待てよ、駿のやつ、仕事はどうしたんだ?あいつ、編集長だっただろ?家を出たって・・・行方不明だったのか?京都にいるって、どうしてわかったんだ?」
 真那は片手を挙げて、健二の質問をさえぎり、首を横に振る。
「仕事はね・・・いろいろあって、一年前に辞めたのよ、駿。家を出てからは、ほんとに音信不通。だって、携帯電話さえ置いて行っちゃったのよ。家の貯金を、きっちり半分持って行ったわ。・・・ねえ、あとは、夜に会って話すから、今は待って」
「夜?」
 健二が眉をひそめて聞き返すと、真那は沈んだ表情で頷いた。
「今夜、駿の居るところへ一緒に行って欲しいの」

 宿に荷物を置き、夜まで休憩するという真那を送って、健二は民宿まで一緒にタクシーに乗った。降りた場所は御幸町通錦小路上ル。新京極や錦市場の賑わいに隠れた、ごく普通の町屋で、看板も何もない宿だ。馴染み客だけを相手に細々と営業を続けている。
「じゃ、今夜七時に、ここへ迎えに来て」
そういい残して真那は、格子戸の向こうに消えた。

 祇園祭の宵山まで、あと数日だと、健二は夕暮れに町に灯った提灯を見て気付く。どこからか、祇園囃子の音色が聞こえてきた。
 古ぼけてはいるが、よく手入れされた玄関の格子を開けると、老女の話し声と、相槌を打つ真那の声が耳に入った。
「宵山まで、泊っていきよし。せっかく祇園さんのお祭りのときに来はったんやから。初めてやろ?真那ちゃん」
「初めてじゃないわ。学生のとき、二年間は京都で暮らしたんだもの。でも、あの頃はバイトばっかりで、お祭りなんてあんまり行けなかったからね」
 温かい電燈の明かりが土壁ににじみ、式台に続く小さな部屋で、文机を挟んで、女性二人は親しく言葉を交わしている。壁側に座る宿の主人・小西のおばあちゃんが和服なのはいつものことだが、背中を向けて座っている真那が、髪をアップに結って藍地の浴衣を着ていることに、健二は目を見張った。
「あ、おこしやす、柳田くん。真那ちゃん、お迎えが来はったで」
小西のおばあちゃんは、目を細くして健二を迎え、真那は立ち上がって振り向いた。電燈の明かりにきらめくその瞳が、今まで見たこともなく美しいと、健二は感じた。
「ほな、しっかりおごってもらいよし、ハモでも」
笑いを含んで、老女は真那を送り出す。

 錦小路は石畳で、真那の下駄の音が高く響いた。両側に魚屋が続く通りは、ほとんど店を閉めて、車が通れない狭いアーケードの下は暗い。東の突き当りにある錦天神に、たくさん掲げられた提灯だけがまばゆく目を射る。
「駿をつかまえに行くのに、浴衣に下駄履きかい?」
拍子抜けして、健二がぼやくと、真那は微笑んで頷く。
「捕獲作戦は、まだよ。腹が減ってはいくさは出来ぬって言うじゃない。まず、飲んで食べてからね」
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