小説・残光(仮)第十二回
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「あ、ほんとだ、鼻緒でこすれて水泡になってる・・・薬屋が確か開いてたから、バンドエイド買おう・・・」
うつむいて、真那の足を見ていた健二の肩に、しっとりした重さが加わった。それは最初、おずおずと、そして急によろめくほどの勢いで、健二にしがみついてきた、真那の重さだった。
「わたし・・・やっぱり、駿に会いたくないよ。頭の中が、ぐちゃぐちゃだよ。きっと、駿の顔を見たら爆発しちゃうよ」
健二のシャツに、熱い涙が滲みて来た。健二は驚いて真那の顔を見る。その視線を避けるように、真那は健二の肩に顔を埋めて、しゃくりあげている。そんな真那を見るのは初めてで、健二は茫然としていた。
だが、服を通して肌に滲み込んで来る涙の感触には、不思議な懐かしさがあった。
(そうだ・・・あれは、知恩院の山門の下だ・・・)
あの少女、秦詩織(はた しおり)と、あてもなく東山界隈をうろついて、深夜、山門にたどり着いて、月を仰ぎながら語った夜。詩織も、健二の肩に顔を押し当てて泣いた。あの時、健二はただ甘美な喜びを味わっていただけだった。
なにもわかっていなかった自分を、その後、何度健二は悔やみ、罵倒し続けただろう。月光を浴びて浮かぶ巨大な山門を何度夢に見て、泣きながら目覚めたことか・・・
真那は、声を殺して泣き続け、健二はただ、じっと真那を支えていた。やがて、真那の息が落ち着いてきて、涙の熱さが冷えてきたとき、健二は静かに言った。
「もう、大丈夫か?行けるか?駿のところへ」
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