« 2004年6月 | トップページ | 2004年8月 »

2004.07.31

小説・残光(仮)第十二回

yoruti.bmp

----------
「あ、ほんとだ、鼻緒でこすれて水泡になってる・・・薬屋が確か開いてたから、バンドエイド買おう・・・」
うつむいて、真那の足を見ていた健二の肩に、しっとりした重さが加わった。それは最初、おずおずと、そして急によろめくほどの勢いで、健二にしがみついてきた、真那の重さだった。
「わたし・・・やっぱり、駿に会いたくないよ。頭の中が、ぐちゃぐちゃだよ。きっと、駿の顔を見たら爆発しちゃうよ」
 健二のシャツに、熱い涙が滲みて来た。健二は驚いて真那の顔を見る。その視線を避けるように、真那は健二の肩に顔を埋めて、しゃくりあげている。そんな真那を見るのは初めてで、健二は茫然としていた。
 だが、服を通して肌に滲み込んで来る涙の感触には、不思議な懐かしさがあった。
(そうだ・・・あれは、知恩院の山門の下だ・・・)

 あの少女、秦詩織(はた しおり)と、あてもなく東山界隈をうろついて、深夜、山門にたどり着いて、月を仰ぎながら語った夜。詩織も、健二の肩に顔を押し当てて泣いた。あの時、健二はただ甘美な喜びを味わっていただけだった。
なにもわかっていなかった自分を、その後、何度健二は悔やみ、罵倒し続けただろう。月光を浴びて浮かぶ巨大な山門を何度夢に見て、泣きながら目覚めたことか・・・

 真那は、声を殺して泣き続け、健二はただ、じっと真那を支えていた。やがて、真那の息が落ち着いてきて、涙の熱さが冷えてきたとき、健二は静かに言った。
「もう、大丈夫か?行けるか?駿のところへ」
----------

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2004.07.30

小説・残光(仮)第十一回

imakumano_003.JPE

----------
 健二の脳裏に、鮮やかに浮かび上がるのは、あの夏の鮮烈なまぶしさだ。獰猛なまでに繁茂していた研究所周りの草を引き抜き、埃まみれになって建物内部の掃除をした。最初の日は弁当や缶ジュースを買ってきて食べたが、二日目には駿が登山用の灯油コンロを持ってきて珈琲を淹れた。真那が張り切って炊き出しをするようになり、さながら研究所は合宿所のようになっていった。二階の一番風通しのよい部屋を真っ先に片付けて、休憩室にしたのだ。ついには健二や駿はそこに泊まるようになり・・・
「作業が終わると、みんなで銭湯に行って、それからよく鴨川まで涼みに行ったね」
「それで、酒買って帰って、そのまんま泊まったんだ。一ヶ月だけの、俺たちの城だったな」
「あの、汚くて臭いソファで、よく寝れたよね、健二。朝行った私が、足を蹴飛ばして起こすのが日課」
「あの研究所、おれたちにとっちゃ、お宝の山でさ、ランタンの明かりで夜更かししてたんだよ」
 業者を雇って一気に潰してしまえなかったのは、研究所の蔵書や標本の価値を無視できなかったせいだ。実際、埃を拭ったガラスケースの中に、まだきらめきを失っていない南国の蝶の翅が輝いたときには、健二は息を飲んだ。
竜生はドイツやフランスの生物学の古書・図鑑に夢中になっていた。駿は膨大な古写真のコレクション整理にこつこつ取り組んでいた。
「真那たちは、何が面白かったんだ?」
「私は・・・片付け魔だから、とにかく全部片付けないと気が済まなかったのよ」
 ともすると、資料にのめりこんでしまう男子たちを叱咤して、女の子たちは掃除と整理、廃棄に邁進した。
「よく駿が怒っただろ?真那や景子が大事な資料を捨てちまったって」
「これ捨てていい?って聞いた時には、彼はうんって言うのよ。でもそれ、上の空なの。あとから気がついて慌てるんだ」
 笑いながらそう言った真那が、不意につまづいてよろめく。痛みに顔をしかめてしゃがみこんだ。
「しくじったわ・・・慣れない下駄の鼻緒で、まめを作っちゃったみたい」
「ちょっと見せてみろよ」
かがんだ健二は、真那のうつむいたうなじの白さに、どきりとする。彼女の髪の香りを吸い込んで、さらに胸の動悸が高くなる。
----------

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2004.07.29

小説・残光(仮)第十回

7gatu_019.JPE

----------
 真那の下駄の音を聞きながら、健二はゆっくりと歩を進め、独り言のように喋る。
「俺たちが出会ったのも、夏だったよな・・・。まだ、誰の下宿にもエアコンがなくて、夏休みには、実家に帰るか涼しい避暑地で住み込みのバイトに行く奴が多くて、京都に残って、あんな割の悪いバイトに応募した俺たちは、みんな変わり者だった」
「楠本蝶類研究所の、解体整理、だったよね。たったの六人で、結局夏休み中かかって・・・」
 それは、国立大学の広大な敷地の片隅にあり、閉鎖されることが決まった一つの建物の、取り壊しと整理のアルバイトだった。研究所といっても、楠本という教授が、戦前から戦中にかけて、台湾や南洋諸島で蒐集した蝶類の標本が納められた、小さな博物館のようなものである、楠本教授は戦後ほどなく行方不明になり、ほとんど誰にも省みられずにいた建物を、その年、取り壊すことが決まり、責任者となった生物学の教授が、安上がりに学生を集めてやらせようとしたのである。
「直接関係あったのは、あの大学で生物学やってた竜生だけだったな。事情知ってる奴はみんな逃げたんだ。うちの大学の学生課に貼ってあったバイトの求人ビラ見て、俺と駿がのこのこ出かけ・・・」
「竜生のおばさんがやってた女子学生アパートにいた、私と・・・詩織が」
 その少女の名前を口にしたとき、真那は少し顔を曇らせ、健二もまた、唇を噛んだ。だが、すぐに何事もなかったかのように回想を続ける。
「そういや景子は、なんであのバイトに来たんだっけ?」
「やだ、忘れたの?景子はあの生物学の春川教授の娘で、あんたたちが逃げ出さないための”エサ”だったんじゃない」
「ひでーことを言うな。でも確かに、最初は逃げ出そうと思ったぜ」
健二は笑い出した。お嬢さん学校で知られる四年制女子大にいた景子は、あの最初の日に、華やかな美貌を不機嫌にゆがめてやって来た。 そして、錆付いた鍵を開けて、薄暗い木造の建物に足を踏み入れ、健二たちも茫然としたものだ。凄まじい埃、蜘蛛の巣、床にはネズミの糞、床板を突き破って天井まで伸びた竹、おびただしい標本箱のなかで朽ちかけた蝶の屍骸・・・
「竜生が結局、責任者みたいなものだったよね。春川教授や大学院生たち、最初の一日でへばっちゃってさ」
「ああ、俺たち六人で燃えたんだ。妙なくらいみんな気が合って、『黄金の六人』って、自分たちで言ってさ」
----------

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2004.07.27

小説・残光(仮)第九回

7gatu_014.JPE

----------
 健二は葉書のおもての方を見た。驚いたことに、差出人の住所が堂々と記してあった。
「・・・こりゃ、大胆だな」
「来るなら来いって、言ってるのよ。挑戦状だね」
 酒を飲み干すと、真那はカウンターに手を突いて立ち上がる。

 錦小路はひと気が失せて、石畳に撒かれた水が光っているばかりだ。かなり長身の真那は、下駄を履くと肩が健二と同じ高さに並ぶ。酔いの気配も見せず、しっかりした足取りである。
「歩いていくには、ちょっと遠すぎるな、タクシーを」
「ちょっと待って。もう少し錦小路を、歩いていかない?」
 真那は低い声で言う。横顔が緊張している。駿に会うのを、まだ先延ばしにしたい気持ちがあるようだと、健二は察した。
「浴衣姿なんて、初めて見るけど、馬子にも衣装だな」
「失礼しちゃうな。まあ、学生時代はジーンズばっかりだったしね。宵山だって、そんな格好で来てたし」
 祭礼の提灯の掲げられた下を、ゆっくりと歩く。鮮魚店の軒下から、黒猫が走って通りを横切った。
「よく歩いたよな、あの頃はみんなで。オールナイトの映画見て、下宿までとかさ」
「祇園から、金閣の近くまで歩きとおしたこともあったよね。無茶苦茶やってたんだなあ」
真那が懐かしそうに微笑む。
 健二も思い出す。自分と駿が同じ大学の三回生で、真那が女子短大の一回生だった。そしてあの少女は、真那の下宿に一緒にいた。それから・・・
「竜生や景子は、元気にしてるのかな」
「年賀状は来るもんね・・・」
「確かにな。でも、ほんとに元気かどうか・・・駿だって年賀状じゃ、仕事辞めたなんて一言も書いてなかったじゃないか」
 駿の名前を出すと、真那の顔から笑みが消える。
----------

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2004.07.26

巨樹5・折れてなお

kamigamo_013.jpg

京都市北区の賀茂別雷神社(かもわけいかづちじんじゃ=いわゆる上賀茂神社)の大鳥居の脇に立つスギである。
折れてなお天を刺す鋭い幹と、横に張り出した大枝の生命力溢れる葉の繁りが印象的。
山に近い上賀茂神社の境内は、幽遠な森があり、木々も生き生きとしている。雷が名前にある神社のことで、高くそびえた樹は、雷撃を受けて折れることが多いのではないだろうか。

| | コメント (2) | トラックバック (1)

小説・残光(仮)第八回

7gatu_004.JPE

----------
 祇園祭の季節、どの店に行っても鱧(はも)は付き物である。豊潤に脂の乗った白い身を噛み締めながら、健二と真那は冷えた日本酒を酌み交わす。
「真那は、昔から飲んでも全然顔に出ないんだよな。駿とは正反対だ」
「彼はすぐ真っ赤になって寝ちゃうからね。飲み歩くのは私ばかり」
「真面目で堅物のあいつが、何で家を出たりしたんだ?」
健二が問いかけると、真那は、切子ガラスのぐいのみをあおった。
「そうよ、真面目で、堅物で、気が小さくて、でもね、ものすごく頑固でプライドが高いの。とても潔癖でね。そんな彼が・・・若い女の子と京都で同棲するために、家出したのよ。信じられる?」
一気に言い切った真那の言葉に、健二は目を丸くする。
「なんだ、そりゃ・・・誰かが見たのか?京都で、あいつを?」
「こんな、ふざけたモノを送ってきたのよ・・・」
真那は、バッグの中から一枚の葉書を取り出して、カウンターに置いた。
 くじ付きの暑中見舞いである。絵柄は祇園祭の鉾が印刷されている。ボールペンで書かれた子供じみた丸っこい字で、こう綴ってあった。
「塩澤真那様
 突然のお便りで申し訳ありません
 駿さんは、京都で私と暮らしています
 ご心配なさってると思って、お知らせします
 でも もう東京に 駿さんは帰りません 
 ずっと私といてくれます
 ごめんなさい 
                     奥宮彩夏」
----------

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2004.07.23

小説・残光(仮)第七回

7gatu_020.JPE

----------
 驚いて健二は真那に、矢継ぎ早に問いかけた。
「待てよ、駿のやつ、仕事はどうしたんだ?あいつ、編集長だっただろ?家を出たって・・・行方不明だったのか?京都にいるって、どうしてわかったんだ?」
 真那は片手を挙げて、健二の質問をさえぎり、首を横に振る。
「仕事はね・・・いろいろあって、一年前に辞めたのよ、駿。家を出てからは、ほんとに音信不通。だって、携帯電話さえ置いて行っちゃったのよ。家の貯金を、きっちり半分持って行ったわ。・・・ねえ、あとは、夜に会って話すから、今は待って」
「夜?」
 健二が眉をひそめて聞き返すと、真那は沈んだ表情で頷いた。
「今夜、駿の居るところへ一緒に行って欲しいの」

 宿に荷物を置き、夜まで休憩するという真那を送って、健二は民宿まで一緒にタクシーに乗った。降りた場所は御幸町通錦小路上ル。新京極や錦市場の賑わいに隠れた、ごく普通の町屋で、看板も何もない宿だ。馴染み客だけを相手に細々と営業を続けている。
「じゃ、今夜七時に、ここへ迎えに来て」
そういい残して真那は、格子戸の向こうに消えた。

 祇園祭の宵山まで、あと数日だと、健二は夕暮れに町に灯った提灯を見て気付く。どこからか、祇園囃子の音色が聞こえてきた。
 古ぼけてはいるが、よく手入れされた玄関の格子を開けると、老女の話し声と、相槌を打つ真那の声が耳に入った。
「宵山まで、泊っていきよし。せっかく祇園さんのお祭りのときに来はったんやから。初めてやろ?真那ちゃん」
「初めてじゃないわ。学生のとき、二年間は京都で暮らしたんだもの。でも、あの頃はバイトばっかりで、お祭りなんてあんまり行けなかったからね」
 温かい電燈の明かりが土壁ににじみ、式台に続く小さな部屋で、文机を挟んで、女性二人は親しく言葉を交わしている。壁側に座る宿の主人・小西のおばあちゃんが和服なのはいつものことだが、背中を向けて座っている真那が、髪をアップに結って藍地の浴衣を着ていることに、健二は目を見張った。
「あ、おこしやす、柳田くん。真那ちゃん、お迎えが来はったで」
小西のおばあちゃんは、目を細くして健二を迎え、真那は立ち上がって振り向いた。電燈の明かりにきらめくその瞳が、今まで見たこともなく美しいと、健二は感じた。
「ほな、しっかりおごってもらいよし、ハモでも」
笑いを含んで、老女は真那を送り出す。

 錦小路は石畳で、真那の下駄の音が高く響いた。両側に魚屋が続く通りは、ほとんど店を閉めて、車が通れない狭いアーケードの下は暗い。東の突き当りにある錦天神に、たくさん掲げられた提灯だけがまばゆく目を射る。
「駿をつかまえに行くのに、浴衣に下駄履きかい?」
拍子抜けして、健二がぼやくと、真那は微笑んで頷く。
「捕獲作戦は、まだよ。腹が減ってはいくさは出来ぬって言うじゃない。まず、飲んで食べてからね」
----------


| | コメント (0) | トラックバック (0)

2004.07.22

豊国さん前の百日紅

saru.JPG

巨樹を探すつもりで出かけたら、思いがけず彩りも豊かな百日紅の街路に出くわしました。
おりしも、ilikewalkingさんのblog
http://walking.exblog.jp/d2004-07-21
でも、さるすべりの街路樹を紹介しておられますので、こっちも紹介します。
場所は、東山七条を少し西に行き、国立博物館の西南角を上がる大和大路通。豊国神社前の通りです。
色とりどりの百日紅がまさに満開でした。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

小説・残光(仮)第六回

tadasu_011.jpg

----------
 火の鳥の足元には水時計があり、水琴窟の音色が響いてくる。
「糺の森に・・・行きたいな・・・」
真那がそう呟いた。
「宿はもう決めてあるのか?」
「うん。小西のおばあちゃんの民宿。でもその前に、糺の森へ」
 そう言って歩き始めた真那に並んで地上に出た健二は、タクシー乗り場へ向かう。

 原初の京都の森の名残りだという糺の森は、下鴨神社の参道を挟んで濃い緑陰を作っている。
 森の中を流れる清流を眺めて、真那は微笑する。
「ここも、時間が止まってるね。昔と、何も変わらない・・・」
「そうでもないさ。この川・・・泉川とか、瀬見の小川とか、奈良の小川とか、古典に歌われた小川を、昔どおりに復元しようとしたりして、あの頃とは微妙に違うんだぜ」
「健二は、でもあの頃に呪縛されてる・・・だから京都にいるんでしょ?」
微笑を向けてきた真那に、健二は絶句した。真那は微笑したまま、視線を水面に落とした。
「どうして、あなたも駿も、そんなにあの頃にこだわるのかなあ・・・」
「駿は・・・どうしてる?」
気になっていたことを、健二は小さな声で口にした。真那は表情を変えずに答えた。
「一ヶ月前に、わたしに黙って家を出たの。それで、一昨日、京都にいるってわかったの」
----------

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2004.07.21

小説・残光(仮)第五回

tika.JPG

----------
 思案しながら、携帯電話をもてあそんでいた健二は、ふと、視線を落とす。上に伸びる構造が視線を奪いがちな京都駅だが、もちろん地下もあった。健二から携帯電話を受けないつもりであれば、電波の届かないところへ行くのも手である。
 伊勢丹デパートの地下には、土産物売り場が並び、明るい賑わいが続いていた。けれど、そこから離れ、東側との通路をたどると、コインロッカーが並ぶほかは何もなく、黒い艶やかな壁がひんやりとした空気を湛えている。地上の暑さと喧騒から遠ざかり、どこか墓地の落ち着きさえ思わせるその地下に・・・彼女の姿はあった。
 さらさらした長い髪を、ポニーテイルにくくり、白いノースリーブのワンピースを着て、素足に茶色い革のサンダルを履いた塩澤真那は、健二の靴音にも振り返らず、じっと、通路の隅にある、祭壇のようなモニュメントに見入っている。
「こんなものが出来たのね・・・手塚治虫の火の鳥」
「ああ、駅ビルの東ゾーンに、KYOTO手塚治虫ワールドっていうのがあるから、その関連だろ」
「不死の鳥・・・神様の一種みたいね」
そう呟いて、真那は、掌を合わせて拝むようなそぶりをした。驚く健二に、顔を上げた真那は舌を出してみせる。そんなしぐさは、少女の頃とまるで変わらないが、彼女の顔にはやつれた色が浮かんでいた。
----------

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2004.07.20

小説・残光(仮)第四回

_010.JPE 

----------
 室町小路広場をステージとして、コロシアムの観客席のように立ち上がっていく大階段。その頭上数十メートルを斜めに走る空中経路。健二は視覚を圧倒する京都駅ビルの仕掛けを見上げ、首をかしげる。
 修学旅行生でもあるまいし、そういった場所に、彼女がたたずんでいる気はしなかった。駅ビルには、伊勢丹デパートがあって、その各階には喫茶店があるし、食堂街をはじめ、他にも飲食店は数多い。そのどれかで涼んでいるのか、と健二は考える。それにしても選択肢は多すぎる。
 あっさり降参して、携帯電話をかけたくなったが、健二は思いとどまった。
(多分、しばらくは彼女は電話に応答しないだろう。あいつの声は、何か、普通じゃなかった。あのはしゃぎようには、違和感を感じた。なんだろう?いったい)
 長いエスカレーターで、大階段の脇をゆっくりと屋上に向かいながら、健二は笑顔の観光客を眺める。昨日の深夜届いた、彼女からのメールの文面を思い出す。

   明日、のぞみで京都に行きます。到着予定12:13。迎えに来て。 真那

 ぶっきらぼうすぎるメールに驚いて送った返信に、まったく応答はなくて、さっきの携帯からの電話が、数年ぶりに聞く彼女の声だった。
 塩澤真那・・・健二と共に京都で青春時代を過ごした、大切な「仲間」の一人であり、そして、健二の親友である塩澤駿の妻である。
---------- 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2004.07.19

小説・残光(仮)第三回

7.6 001.JPE

----------
 京都駅に着き、改札口に急ぐ健二のポケットで、携帯電話の着信音が鳴った。パッヘルベルのカノン・・・
 携帯電話を耳に当て、「もしもし」と話しかける健二に、少しかすれた女性の声が返ってくる。
「健二?今、どこにいるの?」
「ごめん、遅れた。やっと駅に着いたところだ。改札に行けばいいかな?」
「ちょっと待ちくたびれたよ。だから、罰よ」
 笑いを含んだ彼女の声が、健二の足を止めさせる。
「わたしがどこにいるか、教えてあげない。探しなさい」
「おい、この暑いのに、勘弁しろよ!」
 華やかな笑い声を残して、電話は切れた。舌打ちして健二は携帯電話を閉じ、行き交う人の群れに茫然と目を向ける。修学旅行の学生たちの制服が、白い渦となって健二を取り巻く。新幹線の発着に近い八条口は、特に団体の修学旅行生たちの姿が目に付いた。
(こっちには、彼女はおそらくいないだろうな)
健二は、直感的にそう思った。連絡通路に足を踏み入れて、駅の正面である、北側へ向かう。巨大な吹き抜け空間を持つ駅ビルがそこにある。
 知人と何度か待ち合わせに使った、室町小路広場で、健二は辺りを見回した。赤いモニュメントが目に沁みた。
----------

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2004.07.16

小説・残光(仮)第二回

isidan.JPG

----------
 この石段で、あの少女と待ち合わせた日々は遠い記憶である。けれどもまだそれは、今の健二の胸に鋭い痛みをもたらす景色だ。
 (最後に約束した、祇園祭の宵山に、彼女は来なかった。おれは、虚しく石段の上で待ち続けた)
 陽射しは今、石段を灼いて、乾いた風が、楼門の周りにそびえるクスノキの葉を揺らす。
 (あの日は、待っているうちに激しい夕立が襲ってきたんだ)
 祇園祭のクライマックス、宵山から山鉾巡行の頃、よく雷を伴う豪雨があって、大概そのあとに、京都の梅雨は明ける。今日あたり・・・その雷雨が来るかもしれない・・・と、健二は空を見上げた。
 正午近くの祇園の空は晴れ渡り、西に続く四条通には、陽炎が揺れている。
 腕時計に目を落とし、健二は約束の時間が近いことに気付くと、手を挙げてタクシーを拾った。
「京都駅・・・八条口へ」
----------

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2004.07.14

小説・残光(仮)第一回

shorenin_011.jpg

-----------
 知恩院の巨大な三門が、烈日の中にぼやけている。
 神宮道を粟田口からたどってきた柳田健二は、青蓮院前の木陰から、強い日差しの下にさらされて、手の甲で汗をぬぐった。
(ここに来たのは久しぶりだ・・・あの少女と、月光を浴びて門の下にたたずんだのは、もう、何年前になるのだろうか)
 改修もされていたはずだが、東山連山の緑を背にした巨大な門は、あの頃といささかも変わらない。
 不意に胸を掠めた感傷に首を振り、健二は三門に背を向けて、西へ向かう知恩院道をたどり始める。やがて新門をくぐると東山通りの喧騒が待っていた。そして道なりに南へ下がれば、ほどなく祇園。八坂神社の丹塗りの楼門が目に入ってくる。
------------

☆唐突ですが、blogで小説を連載するという試みを始めてみます。あまり構想やプロットなど前もって考えず、ほぼぶっつけ本番で。

| | コメント (4) | トラックバック (1)

2004.07.13

下鴨神社楼門

tadasu_027.JPE

森の中の下鴨神社は、いつも清々しく、鳥居や楼門の丹の色がよく緑に映えて、好きな場所のひとつである。
近くに住んでいた頃は、早朝、木刀の素振りに行ったりしていた。
思えば時代はのどかだったのだろうか?今、そんなことをしていると警察に通報されそうだが(苦笑)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

巨樹4・森の主の遺骨

tadasu_0041.JPG

京都市左京区下鴨の、賀茂御祖神社(かもみおやじんじゃ・通称は下鴨神社)は、「糺の森」(ただすのもり)に囲まれている。山城盆地の原初の姿をとどめているといわれるこの森は、12ヘクタールくらいの広さがあるのだが、完全に周囲は市街地。
森の主といわれた樹齢600年のケヤキの巨樹は、既に倒れて、一部は鳥居前の手水の樋になっていた。
写真の倒木が、その巨樹の遺骸かどうかはわからないが、おそらくこれもケヤキ。
威容と生命力を誇った森の巨人も、やがては朽ちて土に戻る。その姿もまた、神々しい。

| | コメント (4) | トラックバック (1)

2004.07.09

巨樹3・青蓮院の古神

shorenin_0021.JPG

京都市東山区粟田口・・・平安神宮から南に続く神宮道をたどり、三条通を越えて下がると、豊かな緑陰に包まれる。そこ、東山の山懐に抱かれた天台宗門跡寺院・青蓮院(しょうれんいん)を象徴するのが、クスノキの古木である。
神宮道に面して4本、庭園内に1本、合計5本あるいずれもが、おそらく桃山時代に植えられたものらしい。つまり樹齢400年くらい。
写真はそのうち最も、樹冠投影面積の大きいもの、つまり枝葉が一番茂っている1本。
樹高はどれも、15メートルくらいで、そんなに高くないのだが、なんと言ってもこの幹の太さ、太い枝がおびただしく突き出した魁偉な姿に圧倒される。古き神霊の宿りしもの・・・と呟きたくなるのだ。

ilikewalkingさんのblog「京都・哲学の道案内」
http://walking.exblog.jp/i27
では、青蓮院内の涼やかな風韻が味わえます。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2004.07.08

京都駅・地下の火の鳥

7.6 005.JPE

京都駅を息子と探検していて、こんなものを見つけました。
水時計になっているらしいです。なんか、宗教的な荘厳さもあるなあ・・・と思って観ていると
この火の鳥の前に並んでいるベンチの一つには、結跏趺坐して瞑想している人までいました(^^;)。

| | コメント (1) | トラックバック (1)

2004.07.06

校庭の古き友・補

poplasab.JPG

「巨樹2・校庭の古き友」の補足です。

校舎よりも遥かに高くそびえていたのだな・・・

北海道出身中島みゆきの歌にも、ポプラは人をかばい支える存在として歌われていた記憶がある。
ポプラは北のロマンの情景なのだ。
比べて、クスノキは南の情念とエネルギーの象徴かな・・・

| | コメント (0) | トラックバック (0)

今熊野の守護神・補

shugosin_003.jpg


「巨樹・今熊野の守護神」の補足です。
樹の大きさをわかって欲しくて、追加の写真を掲げます。
あんまり上手くないけど(;;)

写真をクリックすると、もう少し大きい画像が見れます。
前みたいにあまりに巨大な画像が出たりはしませんのでご安心を(^^;)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2004.07.03

巨樹2・校庭の古き友

popla.jpg

今年の正月、帰省して、息子を遊ばせようと、自分の通った小学校に行った。こんなご時世だから、校庭は閉ざされているかと懸念したが、おおらかに開放されていた。
そしてそこには、懐かしい友が待っていた。校庭の北西隅にそびえる、ポプラの巨樹。
仰ぐとその梢は、今も遥かに蒼穹を指して高い。
この幹におでこをくっつけて、かくれんぼや鬼ごっこの鬼は「もういいかい?」と叫んだ。
この樹の前にホームベースを据えて、野球をした。この根方に座って、友と喋った。
この枝葉の鳴る音を聞いて、授業を受けた。
この樹は、幼い自分たちを、いつも見守っていてくれた。

ひたすら天を指す細長い樹形は、人を圧倒しない。
のっぽの友達、というイメージだった。
だが、数十年を経て、変わらぬその姿に畏敬した。
こんなすごい生き物と物語を作れたことが嬉しかった。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2004年6月 | トップページ | 2004年8月 »